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鹿児島地方裁判所 昭和44年(行ウ)7号 判決 1975年12月26日

原告 南日本高圧コンクリート株式会社

被告 川内税務署長

訴訟代理人 小沢義彦 愛甲浦志 浜田国治 ほか三名

主文

被告が昭和四三年六月二九日付で原告の昭和四一年九月一日から昭和四二年八月三一日までの事業年度の法人税についてした更正および過少申告加算税賦課決定は、課税所得金額四、八〇六万四、四二七円を基礎として算出される税額をこえる限度において取消す。

その余の原告の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

(一)  被告が昭和四三年六月二九日付で原告の昭和四一年九月一日から昭和四二年八月三一日までの事業年度の法人税についてした更正および過少申告加算税賦課決定は課税所得金額四、七九七万二、〇六二円を基礎として算出される税額をこえる限度において取消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

(一)  本件処分

原告はヒユーム管、パイル橋桁、矢板等の建設資材の製造、販売およびこれに附随する工事の請負施行を営業目的とする会社であるが、昭和四一年九月一日から昭和四二年八月三一日までの事業年度(以下「当期」という)分の法人税について、昭和四二年一〇月三一日被告に対し、課税所得金額四、七九七万二、〇六二円、税額一、六二四万一、七〇〇円とする確定申告(以下「本件確定申告」という)をしたところ、被告が昭和四三年六月二九日課税所得金額を五、四〇八万八、八一四円、税額を一、七九五万六、四〇〇円とするとの更正および過少申告加算税八万五、七〇〇円の賦課決定(以下「本件処分」という)をして、そのころ原告に通知したので原告は本件処分を不服として昭和四三年七月二二日熊本国税局長に対し審査請求をなしたところ、同局長は昭和四四年七月一〇日右審査請求を棄却するとの裁決をして、同月二三日原告に通知した。

(二)  本件処分の違法性

1 本件処分は原告がその系列会社である株式会社植村組(以下「植村組」という)、および植村産業株式会社(以下「植村産業」という)に対する原告川内工場(以下「川内工場」という)における当期の売上に、昭和四一年九月一日から昭和四二年八月三一日までの事業年度(以下「前期」という)におけるプレストレストコンクリート矢板(以下「PC矢板」という)等の売上の一部を繰延べ処理したものがあるとして、右売上の繰延べ分を前期の売上と認定したうえ、これを除外した植村組に対する当期のPC矢板の販売価額は製造原価を下回るものであるとして、法人税法第一三二条第一項を適用して右売上額と、被告の認定した売上額との差額合計六五一万二、六三〇円を当期の売上計上洩れと認定し、さらに原告から植村組に対する右差額と同額の寄付金計上洩れを認定してなされたものであるが、右各認定はいずれもそれに該当する事実がないのになされたもので違法なものである。

2(1) 税務署長は同族会社等の法人税につき「更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算でこれを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準もしくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる」のであるが、右法人税の負担を不当に減少させるか否かは、本件のような系列会社間の行為計算については、両当事者を通じた法人税の合算額によつて判定すべきである。

(2) そこで、仮に被告の主張する低価譲渡による売上計上洩れが認められたとしても、その場合は原告において、売上金額が増加して、別紙計算書(一)(以下「計算書(一)」といい、その余の別紙計算書についても同様とする)の1記載のとおり、二四六万五、四〇〇円の法人税の増額となるが、植村組においては右売上金額と同額の仕入金額が増加されることになつて、計算書(一)の2記載のとおり、二五四万四、九五〇円の法人税の減額となり、両者を通じての法人税額は、かえつて差引き七万九、五五〇円減少することになる。

3(1) 原告は被告より青色申告書提出の承認を受けているところ、当期の法人税の申告を青色申告書により提出したのであるから、同法第一三〇条第一項によりその課税標準の更正にあたつては原告の帳簿書類を調査しなければならないところ、被告はこれをせずに前記の製品低価譲渡による売上計上洩れを認定して本件処分をなしたものであるから、本件処分は違法である。

(2) また、同条二項により青色申告書に係る法人税の確定申告の課税標準を更正するには、更正通知書にその理由を具体的に附記しなければならないところ、本件処分の更正通知書には「売上計上洩れ、六五一万二、六三〇円」として「植村組に対するPC矢板の売上を製造原価以下の価額で計上しているものについて通常の取引額との差額を認定したもの」との記載があるだけで、右通常の取引額とその認定の根拠とが具体的に示されていないから、右売上計上洩れの認定による課税標準の更正は違法である。

4 よつて、原告は、本件処分のうち、課税所得金額四、七九七万二、〇六二円を基礎として算出される税額をこえる限度において取消を求める。

二  請求原因に対する被告の答弁

(一)  請求原因(一)の事実は認める。

(二)1  同(二)の1のうち、事実誤認である旨の原告の主張は否認し、その余の事実は認める。

2  同2の(1)は争う。

法人税法第四条第一項は「内国法人は、この法律により、法人税を納める義務がある。ただし、内国法人である公益法人等又は人格のない社団等については収益事業を営む場合に限る。」と規定し、個々の法人を独立した課税客体としている以上、たとえ系列会社としておたがいに支配、被支配の関係にある法人であつても、全く別個の課税単位として取扱つているのである。

したがつて、原告の同法第一三二条第一項についての主張は、解釈論として全く根拠のないものといわなければならない。

仮に被告の主張が認められるとしても、本件処分は同法第二二条、第三七条第六項の適用も受けるのである。

3(1)  同3の(1)のうち、被告は原告の帳簿書類を調査せずに本件処分をなしたとの事実は否認し、その余の事実は認める。

(2) 同(2)のうち、原告主張の記載は認めるが、その余の原告の主張は争う。

三  被告の主張(処分の適法性について)

(一)1  前期の売上の一部の当期への繰延べによる当期売上過大計上

(1) 原告は、植村組および植村産業に対する当期の売上として、別表(一)記載の各製品を同表中「原告公表売上計上高」欄記載の各売上年月日に各数量(内書分は植村産業に、その余は植村組に各販売したもの)、各販売価額により計上している。

ところが、右製品のうち同表中「当期への繰延べ分」欄に記載のもの(原告公表販売価額合計七七〇万二、九七五円)は、いずれも前期に販売されたものであるのに、原告が当期の売上に繰延べしたものであるから、被告は昭和四二年七月一五日付の原告の前期の法人税についてした更正処分において、右と同額の売上計上洩れおよびこれに対応する前期たな卸高八一〇万七、四八八円、ならびに右たな卸高を基礎とする価格変動準備金四〇万四、四一三円を否認した。

(2) しかし、原告は、当期の課税標準の計算において、被告の計算を採用しなかつたので、被告は本件処分において、加算項目として前期たな卸過大計上分八一〇万七、四八八円、減算項目として売上繰延分七七〇万二、九七五円、価格変動準備金の追認分四〇万四、四一三円を計上することになつた。

2  同族会社の製品低価譲渡による売上計上洩れ

(1) 原告は法人税法第二条第一〇号所定の同族会社である。

(2) 当期中、原告は植村組に対し別表(一)記載の各PC矢板を同表中「当期売上高」欄記載の各数量分、各販売価額(単価)により販売した(以下「本件PC矢板」という)。

(3) 本件PC矢板の通常の販売価格

イ PC矢板の製造原価

(イ) 原告の当期の決算における川内工場の製品についての別表(二)記載の原価計算表(以下「原価計算表(C)」という)によると、PC矢板、スラブ橋用プレストレストコンクリート橋桁(以下「PS桁」という)、プレストレストコンクリート板(以下「PC板」という)の三種の製品を集計するPS部門の製品の製造総重量は三、六三三・七二トンである。また、原価要素としての材料費は一、四四二万九、三〇〇円、労務費は六〇二万四、〇三五円、経費は六一三万一、四〇五円であるから、原価の合計は二、六五八万四、七四〇円である。そこで、右金額を製造総重量で除したPS部門の製品トン当り製造原価は七、三一七円である。

原告は原価計算表(C)の右計算結果に基づき、PS部門の当期末たな卸資産の評価を製品の種類、品質、型の異なるごとに区別せず、一括して製品トン当り七、三一七円で計算した。

(ロ) ところで、原告は昭和三四年一一月一〇日に設立された会社であるが、その設立直後の同年一二月二三日鹿児島税務署長に対して提出したたな卸資産評価方法の届出書によれば、セメント製品は原材料先入先出法による総平均法(法人税法施行令第二八条第一項第一号二)を採用する旨届出し、以来当期までこの方法により評価してきた。

(ハ) そして、原告は右の方法によるたな卸資産の評価を行なうために、財務会計機構と結びついて常時継続的に記録される原価計算制度をとり、製造部門としてヒユーム管、パイル、PS、MU、ブロツク、プレス側溝、その他の各部門に分類し、まず各部門ごとにトン当りの総平均原価を算定している。

ところが、原告はPS部門の製品について、右トン当り総平均原価を基礎として、法人税法施行令第二八条第一項第一号二所定の総平均法(たな卸資産の評価は種類、品質および型の異なるごとに区別して計算すべき旨規定している)により、たな卸資産の評価をすべきであるのに、これをせず、右トン当り総平均原価で一括して評価している。

(二)  しかし、原告がPS部門のたな卸資産を右の方法で評価した理由は原告が、同部門の製品については、どの種類、品質、型のものであつても、そのトン当り製造原価はほぼ同一であると判断したためであると考えられるから、本件PC矢板の製造原価は製品トン当り七、三一七円であると思慮される。

ロ 原告のPC矢板の販売実績

(イ) 当期以前三事業年度の原告の植村組に対するPC矢板の各合計売上高、各合計販売総重量、各トン当り平均販売価額は別表(三)記載のとおりである。

同表によると、PC矢板の販売価額は昭和四一年三月三一日(前期中途)までと、その後とでは四割以上の値下げが行なわれ、引き続き当期中の取引においても、ほぼそれに近い低廉な価額で販売されている。

(ロ) 「厚さ二〇センチメートル、巾四〇センチメートル、長さ八・五メートル」(以下「二〇×四〇×八・五」という)のPC矢板について

右PC矢板の当期以前三事業年度にわたる販売価額の推移を例示し、分析対比すれば別表(四)記載のとおりである。これによれば、右PC矢板は昭和四一年三月三一日に従来のトン当り平均販売価額九、八〇〇円から五、六〇〇円に値下がりし、引き続き当期の取引においてもほぼそれに近い六、八〇〇円という低廉な価額で決定されている。

(ハ) 植村組以外に対するPC矢板の販売価額

原告は昭和四一年一〇月三一日付で、鹿児島県加世田土木事務所長(以下「加世田土木事務所長」という)に対して、川内工場で製造した「厚さ八センチメートル×巾四〇センチメートル×長さ四・五メートル」(以下「八×四〇×四・五」という)のPC矢板二四二本を、一九七万円で販売したが、右PC矢板の一本当り重量は三六〇キログラムであるから、トン当り販売価額は二万二、六一二円となるところ、右価額は川内工場から引渡現場までの運送費相当額を含んだ現場引渡価額であるから、右PC矢板の工場渡しのトン当り販売価額は右二万二、六一二円から、右PC矢板のトン当り運送費用相当額である二、六三四円を差引いた一万九、九七八円である。

ハ 県導流堤工事の設計額

(イ) 原告が植村組に対し当期に販売したPC矢板は、植村組が鹿児島県から請負つた川内港の導流堤工事に使用されたものである。

(ロ) 右請負工事の各契約別の工事名、工事場所、工事期間、請負金額、工事代金の設計額(鹿児島県が入札前に作成した各工事ごとの見積)、および右設計額におけるPC矢板の設計額は、別表(五)記載のとおりである。

(ハ) そして、別表(五)記載の各請負工事の請負金額の各設計額に対する割合は、いずれも約九九パーセントであるから、各設計額の積算要素たるPC矢板の価額が競争入札によつて圧縮されるという程の影響はない。

(ニ) そして、右各設計額の内訳においては、PC矢板は製品キログラム当り一七・三円で計算されている。

ニ 市場価額

(イ) 原告作成の昭和四二年四月一日付プレストレストコンクリート製品定価表(以下「原告発行定価表」という)によるPC矢板の規格別キログラム当りの定価は別表(六)中1欄記載のとおりであり、これによれば、最低価額のものでもキログラム当り一七・五円である。

(ロ) また財団法人建設物価調査会発行「建設物価」誌(昭和四一年三月号〔以下「建設物価誌」という〕)によれば、PC矢板とおおむね類似している長井式コンクリート矢板、圧力養生コンクリート矢板の各規格、各地域(東京、大阪、名古屋)別の製品トン当り市場価額は別表(六)中2、3に記載のとおりであり、これによればその最低価額のものでもトン当り一万五、六〇〇円である。

なお、右最低価額は原告発行定価表の前記最低価額を下回るものであるが、原告は南九州一帯における唯一の矢板メーカーの地位にあること、およびPC矢板は超重量物であるため他の地域から南九州地域に搬入するにおいては相当多額の運送費を要すること等の有利な条件を背景として原告発行定価表を作成したものであるから、同表中1欄記載の各定価は相当な取引価額である。

ホ 以上イないしニの各事実を総合すると本件PC矢板のトン当り製造原価は約七、三一七円で、通常のトン当り販売価額は約一万七、三〇〇円であると解される。

(4) 低価譲渡

しかるに、本件PC矢板の原告公表の前記販売価額(単価)は、いずれも、一万七、三〇〇円に各規格の一本当りのトン数を乗じて得られる通常の取引における販売価額(単価)だけでなく、別表(一)中「たな卸計上高」欄記載のたな卸評価額さえも下回る不当に低廉なものであつて、かかる低価額による本件PC矢板の販売は営利を目的とする会社の通常の取引においては全く考えられない不自然、不合理なものであつて、これは原告が同族会社であることによつて恣意的になされたものと解するほかなく、これを認容すれば原告の当期における法人税の負担を不当に減少させる結果となる。

(5) 原告の行為、計算否認

よつて、本件PC矢板についての原告の行為、計算を否認し、別表(一)中「たな卸計上高」欄記載の各価額にその三〇パーセントに相当する一般管理費および純利益を加算して求められる、同表中「被告認定売上高」欄記載の各価額で販売されたものと認定した。

かくして、本件PC矢板の低価譲渡による売上計上洩れは合計六五一万二、六三〇円となるが、右金額が原告から植村組に対して寄付されたものと認定した。そして、これによる法人税法第三七条第一項の寄付金の損金不算入額は計算書(二)記載のとおり六〇二万四、三八七円となる。

3 以上の事実を基礎に原告の当期分の課税所得を計算すると計算書(三)中「更正額」欄記載のとおり五、四〇八万八、八一四円となるから、本件処分は違法なものではない。

(二)1  青色申告に係る更正のための調査について

(1) 本件処分は法人税法第一三二条第一項により、同族会社である原告の行為計算を否認したものであつて、原告の帳簿書類の記載の信憑性を否定してなされたものではないから、そもそも同法第一三〇条第一項所定の調査を問題にすべき事案ではない。

(2) 仮に、右主張が失当であつても、被告は同項所定の調査をしたうえ、本件処分をなしたものである、

イ 原告は資本金五、〇〇〇万円の法人であるから、大蔵省設置法第三六条の規定に基づく国税庁の調査査察部ならびに国税局の調査査察部、調査部、調査第一ないし第三部および査察部の所掌事務を定める省令(昭和二四年大蔵省令第四九号)第一号本文の規定により、その調査および検査は熊本国税局調査査察部調査課が所掌する。

ロ(イ) 本件処分において、本件確定申告を修正した箇所は次のとおりである。

(加算事項)

a 前期たな卸過大計上分加算もれ 八一〇万七、四八八円

b 植村組に対する本件PC矢板の低価譲渡による売上計上洩れ 六五一万二、六三〇円

c 寄付金の損金不算入額 六〇二万四、三八七円

d 価格変動準備金繰入超過額 一四万二、三八八円

(減算項目)

e 減価償却費認容額 五万〇、一二三円

f 価格変動準備金繰入超過額追認 四〇万四、四一三円

g 売上繰延追認 七七〇万二、九七五円

h 寄付金計上洩れ 六五一万二、六三〇円

(ロ) 本件確定申告について、右a、F、g、は被告が原告の前期分の確定申告に対してなした更正処分の内容と本件確定申告書によつて、dは本件確定申告書によつて、eは減価償却資産につき前期において償却超過となつていた工具、建物について当期償却範囲額を追認したもので、本件確定申告書等によつて、それぞれ計算上の誤りがあつたことは明らかである。

ところで、残る右c、hは、bのPC矢板の売上計上洩れに関連するものであるから、本件処分のうち、法人税法第一三〇条第一項本文により帳簿書類の調査に基づいてなされたかが問題となるのは、右売上計上洩れの認定である。

ハ 調査の経緯

熊本国税局調査査察部調査課所属国税調査官西村敏男(以下「西村調査官」という)は、本件確定申告書および添付の書類、前期分の被告の調査実績とを検討した結果、本件確定申告の課税標額に誤りがあると思われたので、次の調査をした。

(イ) 昭和四三年五月一五日電話により、原告取締役(経理担当)西光夫(以下「西」という)に対し、a被告が原告に対してなした前期分の更正処分において、被告が認定した売上計上洩れについて、原告は当期においてこれを受け入れ、当期の売上金額、および当期の期首たな卸高を修正したかどうかの質問をなし、b植村組その他関係会社に対するPC矢板の販売状況の明細を記載した書類および当期末たな卸表の提出を求めた。

西は、西村調査官に対し、同月一六日付の書留郵便にて、右aの質問に対する回答および右bの書類を送付してきた。

(ロ) 西村調査官は、西から送られた右文書に基づき本件確定申告を分析検討した結果、PC矢板の販売状況に不都合な点があつたので、同月一八日再度電話により西に対し、「八×四〇×四・五」のPC矢板の当期の販売状況について質問等をしたところ、西は、西村調査官に対し同日付の書留郵便にて、回答を送付してきた。

(ハ) 西村調査官は西から送られた右文書に基づき、さらに本件確定申告を分析検討し、同月二〇日および二一日頃電話により、西に対し、本件PC矢板の販売価額が通常の取引に比べて低いこと、右(イ)のa等について質問応答を行なつた。

(ニ) 西村調査官は、昭和四二年三月九日から同月一五日と、同年四月二六日から同月二八日の二度にわたつて、原告の前期分の法人税の調査を担当したことがあり、その調査に当つては、原告の事業場において、帳簿書類の調査を詳細に行なつている。

とりわけ、本件と別件昭和四三年(行ウ)第九号法人税更正処分取消請求事件の争点となつているPC矢板の販売価額の適否については相当以前の取引すなわち昭和三八年一一月の取引から右調査日までの全取引内容につき調査検討した。

そして、本件PC矢板の取引は昭和四二年二月二八日までで終了していたので、西村調査官は右調査によつて、右取引を把握することができたのである。

ニ 被告は右調査結果に基づき、前記低価譲渡による売上計上洩れを認定したものである。

2(1) 本件処分の通知書には、前記低価譲渡による売上計上洩れについては、「売上計上洩れ、六五一万二、六三〇円」として「植村組に対するPC矢板の売上を製造原価以下の価額で計上しているものについて通常の取引額との差額を認定したもの」との記載があるだけである。

(2) しかし、そもそも、前記低価譲渡による売上計上洩れの認定は、本件PC矢板の販売価額が通常の取引価額に比して異常に低廉であることを理由に税法上否認したものであつて、帳簿に記載された取引価額そのものの信憑性を否定したものではないから、「特に帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにする」必要はないのである。

(3) また、(1)の記載によつて、植村組に対するPC矢板の譲渡が低廉に過ぎることを理由に通常の取引価額との差額を当期の売上計上洩れとして益金に加算したことが明らかであつて、法人税法第一三〇条第二項所定の更正の理由付記として具体性に欠けるところはない。

四  被告の主張に対する原告の答弁

(一)1(1) 被告の主張(一)の1の(1)のうち、前期の売上の一部が当期へ繰延べられているとの事実は否認し、その余の事実は認める。

(2) 同(2)については、原告が被告の計算を採用しなかつたことは認める。また、被告主張の前期の売上の一部の当期への繰延べが認められるなら、被告主張の計算通りになることは認める。

2(1) 同2の(1)の事実は認める。

(2) 同(2)の事実のうち、別表(一)中(1)(3)(5)記載の各PC矢板についての事実およびその余のPC矢板については各単価を認め、その余の事実は否認する。

(3)イ(イ) 同(3)のイの(イ)ないし(ハ)の各事実は認める。

(ロ) 同(ニ)の事実は否認する。

PS部門の製品の製造原価は種類、品質、型の異なるごとに大差があり、それぞれ受注生産であるところから、本来は各受注製品別に製造原価を計算しなければ正確なたな卸資産の評価をなしえないのであるが、PS部門の製品は各種類における型が多数であるため計算手続が技術上複雑で計算に長時間を要するため、やむをえず右製造原価の差を無視して、PS部門の製品につき一括して製造原価を計算し、たな卸の評価をしたものである。そこで、PS部門の製品をPC矢板とPS桁・PC板に二分し、その他の部門およびプレス側溝部門を合わせてプレス他部門として、原価計算表(C)を修正すると別表(七)記載の原価計算表(以下「原価計算表(D)」という)のとおりとなり、これによれば、PC矢板のトン当り製造原価は四、八〇四円である。

なお、製品の販売価格の計算は、企業が製品の価格に関する決定をするために随時なされるもので、それは経常的な原価計算だけでは不充分であつて、特殊調査を中心とした、いわゆる差額原価収益分析によつて行なわれる。だから、いわゆる財務会計目的のために財務会計機構と結びついて経常的に計算された原価計算表(C)のみから直ちに製品の販売価格の計算をすることはできない。

ロ(イ) 同ロの(イ)の事実のうち、別表(三)中2、3の各記載は認めその余の事実は否認する。

(ロ) 同(ロ)のうち、別表(四)中2、3の各記載は認め、その余の事実は否認する。

原告主張のPC矢板は植村組が鹿児島県川内港の道流堤工事を請負施行することによつて、発注されたものであるが、昭和四〇会計年度工事として請負つた工事のため製造納入されたものであるところ、これはその後追加注文があるという保障はなかつたので法人税法上型枠の費用は三年間に減価償却費として製品に負担させることを予定されているにもかかわらず、その販売代金から回収することとして、販売価額が決定された。

だから、その後植村組が継続工事として、川内港の工事を昭和四一会計年度も請負うことにともなつて、植村組から原告に対して、注文のあつた右PC矢板は、その型枠費用が回収済みであつたため価額の引下げを行なつたものである。

(ハ) 同(ハ)のうち、原告が加世田土木事務所長に対し、川内工場で製造した「八×四〇×四・五」のPC矢板を一九七万円で販売したことは認め、その余の事実は否認する。

右PC矢板の厚さは八センチメートルなのに本件PC矢板の厚さは二〇~二五センチメートルで、厚さに著しい差がある。

PC矢板で、厚さに大きな差がある場合は、その基幹をなすPC線の配線、コンクリートの量等において根本的に相違し、厚さの薄いPC矢板は厚いものに比して割高となるのは製品の特性上当然のことであり、この両者を同一に論じようとする被告の主張は現実を無視したものである。

ハ(イ) 同ハの(イ)の事実は認める。

(ロ) 同(ロ)同のうち、別表(五)中「矢板工の設計額」欄の記載については知らないが、その余の事実は認める。

(ハ) 同(ハ)の事実は否認する。

(ニ) 同(ニ)の事実は知らない。

ニ(イ) 同ニの(イ)の事実は認める。

但し、原告発行定価表記載の各製品は大量に製作されるものでなく、数拾個をこえる注文があることは全くまれである。したがつて、原告発行定価表はこの少量生産の特性を考慮して定められたものである。

そして、実際の受注にあたつては、数量、取引条件等を考慮して、その都度製品の販売価額を決定しており、少量を生産する場合は型枠等の製作または購入に要する費用が割高となるために価額が割高となるが大量生産の場合は製造原価は低廉なものとなるので割安の価額で販売されるのが実情である。

(ロ) 同(ロ)同のうち、建設物価誌によれば、長井式コンクリート矢板、および圧力養生矢板の各規格、各地域(東京、大阪、名古屋)別の製品トン当り市場価額は別表(六)中2、3欄に記載のとおりであることは認め、その余の事実は否認する。

(4) 同(4)のうち、本件PC矢板の実際の各販売価額が被告の主張どおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。

(5) 同(5)の主張は争う。

被告主張どおりの低価譲渡による売上計上洩れが認められるなら、その結果として当期における売上総益率(売上利益の売上金額に対する比率)が異常に低下するはずであるが、別表(ハ)記載のとおり、当期とPC矢板の販売価額について争いのない、それ以前の三事業年度を比較してもかかる事実は認められない。

3 同(三)のうち、計算書(三)中「原告の主張」欄と一致する「更正額」欄の各記載は認め、その余の事実は否認する。

(二)1(1) 同(二)の1の(2)のイの事実は認める。

(2) 同ロの(イ)の事実は認める。

(3) イ 同ハの(イ)、(ロ)のうち、西が西村調査官に対し、被告主張どおりの資料を提出したことは認める。

原告の提出した資料の調査および西の質問によつて、法人税法第一三〇条第一項が要求する帳簿書類の調査に代えうるものではない。

ロ 同(ニ)のうち、被告主張の頃原告の事業場において、帳簿書類の調査がなされたことおよび、本件PC矢板の取引が昭和四二年二月二八日までに終了したことは認める。

しかし、右調査は当期中になされたものであり、またPC矢板の製造原価の算定に必要な帳簿(総勘定元帳、経費明細帳、材料元帳等)およびそれを証する書類(納品書、仕切書、請求書、領収書、入出庫伝票、入出金伝票、振替伝票等)を調査せず、ただ売上帳の記録を調査したのみである。

2 (1) 同2の(1)の事実は認める。

(2) 同(2)、(3)の各被告の主張は争う。

五  原価計算表(D)に対する被告の反論

原価計算表(D)は次の理由により不当である。

(一)  原価計算表(D)は同(C)に対し、原価の総額の計算において九七万五、八五〇円減額しているが、この修正はPS部門の原価の減額ひいてはPC矢板の原価を減額させるためになされたものである。

(二)  原価計算表(D)は同(C)に対し、PS部門の原価の総額において一三五万五、九一一円減額しているがこの修正は同(D)における各部門の原価要素を配分するウエイトが恣意的に配分換えされたためである。

(三)  原価計算表(D)において、PS部門の原価を、PC矢板とPS桁・PC板とに正確に配分するにはそれぞれの部門を設定のうえ継続的に記録して配分すべきであるのに、なされていない。

(四)  原告はPS部門の材料費(セメント、砂、砂利)の計算について、PS部門をPC矢板とPS桁PC板に二分した原価計算表(D)ではまず、PC矢板の各規格の一本当り各所要量を見積り、これに各規格の当期中の製造本数を乗じて右各材料ごとに合計して消費料を算出し、右各材料の平均単価を乗じたものがPC矢板部門の右各材料費であり、PS部門の右各材料費からPC矢板部門の右各材料費をそれぞれ差引いたものが、PS桁、PC板部門の右各材料費となるとの方法を採用しているが、適当ではない。

六  被告の反論に対する原告の答弁

(一)  被告の反論(一)、(二)のうち、各減額の事実は認め、その余の各事実は否認する。

(二)  同(四)のうち、被告主張の計算方法を採つていることは認める。

第三証拠関係<省略>

理由

一  請求原因(一)、および(二)の1のうち事実誤認である旨の原告の主張を除くその余の事実は当事者間に争いがない。

二  前期の売上の一部の当期への繰延べによる当期売上過大計上

(一)  被告の主張(一)の1の(1)のうち、原告が、植村組および植村産業に対する当期の売上として、別表(一)記載の各製品を同表中「原告公表売上計上高」欄記載の各売上年月日に、各数量(内書分は植村産業に、その余は植村組に販売したもの)、各販売価額により計上したことは当事者間に争いがない。

そして、右製品のうち同表中「当期への繰延べ分」欄に記載のもの(原告公表販売価額合計七七〇万二、九七五円)は、いずれも前期に販売されたものであることは、当裁判所に顕著な事実である。

(二)  被告の主張 同(2)の事実は当事者間に争いがない。

三  同族会社の製品低価譲渡による売上計上洩れ

(一)  被告の主張する原告(同族会社)の製品低価譲渡による売上計上洩れについて判断する。

そもそも、法人税法第一三二条第一項が同族会社の法人税につき更正または決定をする場合において、その法人の行為または計算でこれを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為または計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準もしくは欠損金額または法人税の額を計算することができる旨規定しているのは、非同族会社においては会社と社員、あるいは社員相互の利害対立を通じて、当該法人の所得、法人税の負担をことさら減少させるような行為がなされにくいのに対し、同族会社においては、その経営権が一部の社員に独占されているため、いわゆる「隠れた利益処分」等の合理的理由を欠き、当該法人の所得、法人税の負担を減少させる行為がなされやすく、これを放置するにおいては、租税負担の公平の原則に反することになるからであり、同族会社のかかる行為のうち「不当」に法人税の負担を減少させるものについて、右のとおり規定したものである。

したがつて、同族会社のなした製品の低価額による譲渡が右法条の適用を受けるには、その販売価額が非同族会社の通常の取引における、同一種類、品質、型の製品の販売価額に比して「異常」に低いもの(以下「異常低価額」という)であること、およびそのような低価額による製品の販売について合理的理由(販売時期、販売地域、数量、会社の営業方針、取引条件、取引先との関係等に鑑みて)がないことが要件であると考えられる。

そして、非同族会社の通常の取引における製品の販売価額は、同一種類、品質、型のものであつても、そこには高低自ら巾があるものと思慮されるから、異常低価額とは、いわゆる時価を下回るだけでなく、非同族会社の通常の取引において考えうる最低の販売価額(当該製品の製造原価、あるいは非同族会社の取引における実際の販売価額でいずれか低い方〔以下「最低販売価額」という〕)をも下回る意味に解するのが相当である。同族会社の異常低価額による製品の販売について、税務署長は、右法条により異常低価額による製品の売買を否認して、最低販売価額による製品の売買を認定することができるのである。そして、税務署長は、同族会社の製品販売価額が最低販売価額を下回つていることを主張、立証しなければならず、またそれでよく、右事実が証明されれば、これを争う側において、当該製品の異常低価額が合理的理由のあることを主張、立証しなければならないとするのが相当である。

(二)  被告の主張、同2の(1)の事実は当事者に争いがない。

そして、別表(一)中(1)、(3)、(5)記載の各PC矢板は、当期中原告が植村組に対し、同表中「当期売上高」欄記載の各数量分、各販売価額(単価)により販売したものであることは当事者間に争いがない。同表中(2)、(4)記載の各PC矢板については、原告は植村組に対する当期の売上として同表中「原告公表売上計上高」欄記載の各数量分、各販売価額(単価)により計上していることは当事者間に争いのないところ、右売上には前期に販売された同表中「当期への繰延べ分」記載の各PC矢板が含まれて計上されていることは前記のとおり当裁判所に顕著な事実であるから、これを差し引いた実質的な当期の売上は、同表中「当期売上高」欄記載のとおりであることが認められる。

(三)  そこで、本件PC矢板の最低販売価額について検討する。

1  PC矢板の製造原価(原価計算表(C))

(1) 被告の主張 同(3)のイの(イ)ないし(ハ)の各事実は当事者間に争いがない。

(2) しかし、原価計算表(C)において原告がPS部門の製品につき、種類、品質、型の異なるごとに区別せず、製品トン当り七、三一七円で一括して、原価計算をし、さらに同様に当期末たな卸資産の評価をなした理由として、原告が同部門内の製品については、どの種類、品質、型のものであつても、そのトン当り製造原価はほぼ同一であると判断したものであるとの被告の主張を認めうる証拠はなにもない。

かえつて、原告が当期末のPS部門のたな卸資産の評価をなすために採つた右計算方法は、前期末の同部門のたな卸資産の評価をなす際にも採られたものであること、そして原告が前期末の同部門のたな卸資産の評価に右計算方法を用いた理由は、同部門の製品がほとんど受注生産であり、種類、型の異なるごとに製造方法、材料等が異なるので、同部門のたな卸資産を正確に評価するには受注ごとの製品種類型別の製造原価を計算しなければならないが、これをなすとすればPS部門の製品の各種類における型が多数なため、計算が技術上複雑であるほか、川内工場における製品の原価計算は当時寺迫五男一人が担当者であつたことにより、計算に長時間を要することになるところ、前期の決算は同年一〇月中に開かれる原告の定例取締役会までには終了しなければならなかつたので、右寺迫はやむをえず、同部門の製品の製造原価の差を無視して、一括してトン当り七、四二七円と計算したうえ、同部門の当期末たな卸資産の評価を一括してトン当り七、四三〇円で計算したものであることは、当裁判所に顕著な事実である。そして、右前期における諸事情につき、それ以後変更があつたと認めうる証拠は何もない。

そうすると、原価計算表(C)におけるPS部門の製品の原価計算の方法が前期と同様であるのは、前期と同様の事情によるものと推認されるが、そうすると、その計算結果である製品トン当り七、三一七円については、その正確性につき疑問があるといわざるをえないから、原告が同部門の製品のたな卸資産を製品トン当り七、三一七円で一括して評価しているからといつて、直ちに本件PC矢板のトン当り製造原価がほぼこれと同一であると認めることはできない。

2  原告のPC矢板の販売実績の検討

(1) 被告の主張同ロの(イ)のうち、原告の植村組に対するPC矢板の各合計売上高、各合計販売総重量、各トン当り平均販売価額は別表(三)中2、3記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、その余の事実を認めうる証拠は何もない。

右争いのない事実によれば、原告の植村組に対するPC矢板のトン当り平均販売価額が、前期中である昭和四一年三月三一日とその後とでは、九、八一二円から五、五七六円に大きく値下がりし、引き続き当期中の取引においても、ほぼそれに近い六、六六二円で販売されている。

しかし、右値下の事実からだけでは、本件PC矢板の最低販売価額を求めることはできない。

(2) 被告の主張同ロの(ロ)のうち、「二〇×四〇×八・五」のPC矢板の当期および前期の各販売価額(単価)、各トン当り販売価額が別表(四)中2、3欄に各記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、その余の事実を認めうる証拠は何もない。

右争いのない事実によれば、右PC矢板のトン当り平均販売価額が、前期中である昭和四〇年一〇月三一日とその後の昭和四一年三月三一日とでは、九、八〇〇円から五、六〇〇円に大きく値下がりし、引き続き当期中の取引においても、ほぼそれに近い六、八〇〇円で販売されている。

しかし、右値下の事実からだけでは、本件PC矢板の最低販売価額を求めることはできない。

(3) <証拠省略>によれば、原告が加世田土木事務所長岩下秀雄に対し、昭和四一年一〇月三一日、川内工場で製造した「八×四〇×四・五」のPC矢板二四二本を、一九七万円で販売したこと、右PC矢板の引渡場所は加世田市内の小湊漁港の局部改良工事現場であつたことが認められ(原告が加世田土木事務所長に対し、右PC矢板を販売したことは当事者間に争いがない。)、右認定に反する証拠はない。

しかしながら、右PC矢板の販売価額に含まれていると考えられる、川内工場から右小湊漁港までの運送費相当額を認めうる証拠はなく、この点をさておくとしても、右PC矢板の規格は、厚さ八センチメートル、長さ四・五メートルなのに、本件PC矢板の厚さは二〇~二五センチメートル、長さ六・五~一七メートルと著しい差があるところ、右各PC矢板のトン当り製造原価はほぼ同一であると認めうる証拠は、結局ないのであるから、右「八×四〇×四・五」の前記販売価額をもつて、本件PC矢板の最低販売価額認定の資料に用いることはできない。

3  県導流堤工事の設計額

(1) 被告の主張同ハの(イ)の事実は当事者間に争いがない。

(2) 右請負工事の各契約別の工事名、工事場所、工事期間、請負金額は別表(五)記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

<証拠省略>によれば、右各請負工事代金の設計額(鹿児島県が入札前に作成した見積)、および各設計額におけるPC矢板の設計額は別表(五)中「単価の計算」欄記載のとおり製品キログラム当り一七・三円であることが認められ右認定に反する証拠はない。

(3) 別表(五)記載の各請負工事の請負金額の設計額に対する割合はいずれも約九九パーセントであるから、右各設計額の積算要素たるPC矢板の価額が、競争入札によつて圧縮されるという程の影響はないものと認められるところ、右各設計額の内訳におけるPC矢板の価額は同表記載のとおり、製品キログラム当り一七・三円で計算されているのである。

(4) ところで、右PC矢板の設計額の計算について、<証拠省略>によれば、鹿児島県の川内土木事務所において、右各設計額は、積算されたものであるところ、その積算の際PC矢板の価額を決定するのに、直接参考となる資料がなかつたので、鹿児島県土木部で作成した資料に掲載されていたPS桁の価額を参考にしてPC矢板の価額を算定したことが認められ右認定に反する証拠はない。

しかし、PC矢板の価額算定の具体的方法根拠については、右証言は瞹昧で、これを認めることはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

したがつて、算定の具体的方法、根拠が不明であるPC矢板の右設計額を本件PC矢板の最低販売価額認定の資料に用いることはできない。

4  市場価額

(1) 被告の主張同ニの(イ)の事実は当事者間に争いがない。

しかし、原告発行定価表の価額は原告側で決めたいわゆる「言値」であつて、最低販売価額認定の資料に用いることができないことは明らかである。

(2) 被告の主張同(ロ)のうち、建設物価誌によれば、長井式コンクリート矢板、圧力養生コンクリート矢板の昭和四一年頃の各規格、各地域別の製品トン当り市場価額は別表(六)中2、3欄記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、これによればその最低価額のものは、圧力養生コンクリート矢板(SGIA長さ・八メートル、厚さ・一二センチメートル、巾一〇センチメートル)の大阪地域の工場渡し価額は一本一万六、二九〇円であり、トン当り価額は一万五、〇八三円(一本当り重量は一、〇八〇キログラム)である。

しかし、本件PC矢板と、右の長井式コンクリート矢板、および圧力養生コンクリート矢板とが、製造方法、材料等において、どの点が同一で類似し、どの点が異なつているのかを具体的に認めうる証拠はないのであるから右長井式コンクリート矢板および圧力養生コンクリート矢板の市場価額を、本件PC矢板の最低販売価額認定の資料に用いることはできない。

5  以上によれば、本件PC矢板の最低販売価額を認定することができず、他にこれを認めうる証拠はないので、被告の主張する、同族会社の製品低価譲渡による売上計上洩れを認めることはできない。

被告は請求原因に対する被告の答弁(二)の2において、被告主張の製品低価譲渡による売上計上洩れは法人税法第二二条、第三七条第六項によつても、認められる旨主張するものと解しうるので、この点について判断するに、同法第三七条第六項は単に「贈与又は無償の供与」の事実の認定と同法上の寄付金の範囲について規定したものであつて、いわゆる行為計算の否認規定でないことは法文上明らかであるから、同項の要件事実を認定しうるか判断するまでもなく、同項によつて、原告の行為を否認してなされた右売上計上洩れの認定をなすことはできず、また同法第二二条のみから被告の右主張を認めることができないことは明白である。

四  結論

以上により原告の当期の課税所得を計算すると、計算書(三)中「認定額」欄記載のとおり、四、八〇六万四、四二七円となるので、本件処分のうち課税所得金額四、八〇六万四、四二七円を基礎として算出される税額をこえる部分は違法であるから、原告の本訴請求は本件処分のうち四、八〇六万四、四二七円を基礎として算出される税額をこえる部分の取消を求める限度において理由があるのでこれを認容し、その余の部分は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺井忠 湯地紘一郎 坂主勉)

別表(一)ないし(八)、計算書(一)ないし(三)<省略>

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